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第14回 『プライベート・エクイティの動向とパフォーマンス測定③~』

PwCあらた有限責任監査法人
パートナー、資産運用インダストリーリーダー
清水 毅

第三金融部(資産運用)シニアマネージャー
秋山 潤一郎

2019年4月12日

目次
1. はじめに
2. PEの動向
3. PEのパフォーマンス実績
4. 英国におけるPEのパフォーマンス測定
5. GIPSで定められているPEのパフォーマンス測定方法
6. 日本におけるPEの評価に関する会計基準
7. 日本におけるパフォーマンス測定の課題
8. まとめ

 前2回では、PEの動向やパフォーマンス実績、グローバルでのPEのパフォーマンス測定についての取組みについて概説した。最終回となる本稿では、日本でPEファンドのパフォーマンス測定の取組みを行う際に、留意すべき会計基準や、その他克服すべき課題について概説する。

6) 日本におけるPEの評価に関する会計基準

 前回記載した通り、PEファンドのパフォーマンス測定のためには、キャッシュフロー情報と、各時点のファンド純資産の公正価値評価額が主に必要な情報である。
 しかしながら、日本においては、以下の理由により、定期的な公正価値評価が行われていないファンドが多く存在する。

(1) 投資事業有限責任組合の会計基準
 日本においては、PEファンドは投資事業有限責任組合(以下「有責組合」)の法形態が多く採用されている。有責組合の財務諸表に適用される会計基準である「中小企業等投資事業有限責任組合会計規則」(以下「有責組合会計規則」)では、有責組合が保有する投資は時価評価することを求めており、時価評価の方法は投資事業有限責任組合契約(以下「組合契約」)に定めるところによるとされている。
 多くの有責組合の組合契約では、投資の時価評価方法を、平成10年5月通商産業省「投資事業組合の運営方法に関する研究会報告書」(以下「運営研報告書」)資料6「投資事業有限責任組合における有価証券の評価基準モデル」に基づき定めている。
 図表7は、運営研報告書に基づく有価証券の評価基準モデルの概要である。この方法では、市場性のない有価証券について、評価増は直近ファイナンス価格により行い、評価減は直近ファイナンス価格または回収可能価額のいずれか低い価額で行うものとされている。また、このうち回収可能価額については、投資の状況に応じて評価額を取得原価の75%、50%、25%ないしは備忘価額とする簡便的な方法も認めている(<図表7>)。

<図表7>運営研報告書に基づく有価証券の評価基準モデル

<図表7>運営研報告書に基づく有価証券の評価基準モデル

 そのため、実務的には、直近ファイナンス価格がない限り、投資は取得原価ないし上記簡便法により見積もられた回収可能価額で評価されていることが多い。

(2) 金融商品会計基準
 PEファンドの持分を保有する会社の財務諸表において、PEファンドへの投資の評価は、「金融商品に関する会計基準」(以下、「金融商品会計基準」)に基づき行う必要がある。
 しかしながら、金融商品会計基準では、株式に付すべき時価は市場価格のあるもののみとされており、市場価格のない株式は、減損処理すべき事象がない限り取得原価で評価される。この点において、金融商品会計基準と有責組合会計規則との間で会計処理方法の相違が生じている。
 そのため、有責組合の場合、各組合員が有責組合の損益等を自己の財務諸表に取り込む際の便に資するため、無限責任組合員が有責組合会計規則とは別に金融商品会計基準に準拠した財務諸表を任意に作成することがある。この点に関する無限責任組合員の負担は大きく、有責組合会計規則、金融商品会計基準にそれぞれ準拠した投資評価に加えて、公正価値評価を行うことは、リソースの観点からも困難である場合が多い。
 国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)では、未公開株式も公正価値で評価することとされているため、投資事業有限責任組合ではなく、外国籍のリミテッドパートナーシップ等で運用を行っている会社で、IFRSまたはUS GAAPに基づいてPEファンドの財務諸表を作成している会社では、この問題は生じない。
 なお、2018年3月に経済産業省・一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会・みずほ情報総研株式会社より公表された「平成29年度グローバル・ベンチャー・エコシステム連携強化事業 (我が国におけるベンチャー・エコシステム形成に向けた基盤構築事業) 投資事業有限責任組合契約(例)及びその解説」では、VCファンドにおける活用を想定したものではあるが、有責組合の組合契約における投資資産時価評価準則のモデルとして、運営研報告書に基づく評価基準モデルに加え、IPEVガイドラインに基づく評価基準モデルを例示している。
 IPEVガイドラインは、BVCA、European Private Equity and Venture Capital Association(EVCA)およびフランスAssociation Française des Investisseurs en Capital(AFIC)の各業界団体によって、2005年3月に最初に設定された、未公開株式の公正価値測定に係るガイダンスであり、IFRSやUS GAAPとの整合性も確保の上、策定されたものとなっている。
 IPEVガイドラインでは、投資ごとに、以下の中から最適な評価技法を選択することが求められている。
A. マーケット・アプローチ (直近の投資価格、マルチプル、業界固有の評価ベンチマーク、入手可能な市場価格)
B. インカム・アプローチ (ディスカウント・キャッシュ・フロー)
C. 再調達原価アプローチ (純資産)

 図表8は、IPEVガイドラインに基づく、投資先のステージ・状況に応じた評価技法をまとめたものである。

<図表8>IPEVガイドラインに基づく投資評価技法

<図表8>IPEVガイドラインに基づく投資評価技法

 「投資事業有限責任組合契約(例)及びその解説」においてIPEVガイドラインに基づく評価準則例が設けられたことは、今後PEファンドのパフォーマンスの国際間比較ないし他のアセットクラスとの比較可能性を高めるため、投資の公正価値評価の普及を目指すものと捉えられる。

7) 日本におけるパフォーマンス測定の課題

 日本においてPEファンドのパフォーマンス測定を行う場合、克服すべき課題として、以下の点が考えられる。

(1) 投資の評価
 前項で考察した通り、日本における会計基準を主な理由として、投資の公正価値評価が実施されていないファンドが多く存在する。
 IFRSやUS GAAPで財務諸表が作られるファンドの運用会社や、財務諸表上は取得原価で評価されていても、内部管理等の目的で投資の公正価値評価が一定以上の精度をもって実施されている会社では、各期末において投資が公正価値評価されたファンドの純資産額を提供可能であるが、それ以外のファンドでは、原則取得原価での評価額しかデータ保持がなされていない場合が多い。
 また、期末において成功報酬が未発生であるものの、発生することが確実もしくは確度が高い場合には、期末評価額からは成功報酬を見積もって差し引くことが求められるが、このような計算を行っていないファンドも多い。
パフォーマンスデータの精度向上には、これらの点を克服すべきと考えられる。

(2) 運用会社のデータ整備体制
 パフォーマンス測定には、投資の公正価値評価額のほか、キャッシュフローデータ等の情報が必要となる。
 初めてパフォーマンス測定を実施する際、清算済みのファンドも含めて、対象となったファンドの設立時からのキャッシュフローデータや公正価値評価額データを収集する必要がある。
 初回測定後は、直近データを収集すれば足りるため負担は減るが、測定開始時における運用会社の負担は大きいと考えられる。

(3) 母集団の規模
 測定されたパフォーマンスデータが日本のPEファンド全体の状況を表すためには、測定に参加する運用会社・ファンドのカバレッジを高めることが不可欠である。
 また、ファンドサイズや投資戦略ごと等多様な切り口でのパフォーマンスデータを開示するためには、母集団となるファンド数が一定以上であることが必要である。ファンド数が少ないグループのパフォーマンスを開示し、特定のファンドのパフォーマンスが推測される可能性が高まることは避けなければならず、母集団が少ない場合は、報告できるパフォーマンスデータの種類も限られる。
 パフォーマンス測定に参加する会社・ファンドの数を増やすことは、投資家にとって有用な情報を提供する上で、非常に重要である。

8) まとめ

 世界におけるPEファンドの運用資産が拡大を続ける中、日本は経済規模に比してPEファンドの投資規模が小さい一方で、その発展・成長の余地は大きいものと考えられる。
 その中で、投資家におけるPEの認知度を高め、PEファンドに投資しやすい環境を整えるために、日本のPEファンドのパフォーマンス測定を行うことは、非常に有益なものになりうると考える。  
 前項で考察したような課題を解決するのは容易ではないが、少しずつでも課題を解決の上、有用な情報が投資家に提供され、投資家におけるPEのアセットクラスとしての認知が深まることによって、日本のPE業界がさらに発展することを期待したい。

著者プロフィール 
清水 毅(しみず・たけし)
PwCあらた有限責任監査法人パートナー、資産運用インダストリーリーダー

秋山 潤一郎(あきやま・じゅんいちろう)
PwCあらた有限責任監査法人第三金融部(資産運用)シニアマネージャー

清水 毅(しみず・たけし)
PwCあらた有限責任監査法人パートナー、資産運用インダストリーリーダー。
30年以上の間、東京およびニューヨークにおいて、ファンドおよび運用会社を中心とする金融機関に対して、監査およびアドバイザリー業務を提供。日本証券業協会・投資信託協会・日本投資顧問業協会により設置された「資産運用等に関するワーキング・グループ」委員を務める。主たる著書として、「投資信託の計理と決算」(中央経済社・共著)、「不動産投信の会計と税務」(中央経済社・共著)、「集団投資スキームの会計と税務」(中央経済社・共著)等。公認会計士、日本証券アナリスト協会 検定会員。

秋山 潤一郎(あきやま・じゅんいちろう)
PwCあらた有限責任監査法人第三金融部(資産運用)シニアマネージャー。
約20年の間、東京および上海において金融機関、その他幅広い業種の会社に対して、監査およびアドバイザリー業務を提供。プライベート・エクイティ・ファンドおよびその運用会社の監査、ならびにプライベート・エクイティ業界に対するアドバイザリー業務を数多く手がける。公認会計士。

   

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